2026.06.13

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【用途別】作動油(オイル)の種類と粘度グレードの選定基準

作動油(オイル)の種類と粘度グレードの選定基準

油圧シリンダーや油圧ポンプを動かす作動油は、ただの油ではありません。種類や粘度グレードを誤ると、ポンプの内部漏れ・摩耗・油温上昇・バルブ作動不良といったトラブルに直結します。とはいえ"とりあえずVG46"という選び方は、用途や環境によっては最適解ではない場合があります。本記事では、ISO規格による種類の分類・粘度グレードの意味・用途別の選定基準を順を追って解説します。

この記事でわかること

  • 作動油が果たす3つの役割(動力伝達・潤滑・冷却)
  • ISO規格(HH / HL / HM / HV)による種類の違いと使い分け
  • ISO VG(粘度グレード)の読み方と、粘度がズレたときの弊害
  • 用途・設置環境・油温から適切なグレードを選ぶ3ステップ
BASIC 01

作動油とは何か――3つの役割

作動油(油圧作動油)は、油圧システムにおいてエネルギーの媒体として機能する工業用オイルです。単に「圧力を伝える液体」ではなく、以下の3つの役割を同時に担っています。

作動油が担う3つの機能

図:作動油が担う3つの機能

役割 内容 不具合が起きると
動力伝達 ポンプで加圧した圧力エネルギーをシリンダー・モーターへ伝える 力が伝わらず、動作不良・出力低下
潤滑 ポンプ・バルブ・シリンダーの摺動部に油膜を形成して摩耗を防ぐ 摩耗促進、焼付き、機器の短寿命化
冷却 発生した熱をタンクへ運び、油温を適正範囲に保つ 油温上昇、粘度低下、シール劣化

📌 ポイント

作動油はこの3役割を同時に担うため、粘度・添加剤・基油の種類のどれか一つが用途と合わないだけでシステム全体のパフォーマンスに影響します。

BASIC 02

作動油の種類――ISO規格による分類

日本には油圧作動油を直接規定するJIS規格はなく、世界的にはISO 6743-4(油圧システム用潤滑剤の分類)が参照されます。鉱油系作動油の性能要件はISO 11158で定められており、HH・HL・HM・HVの4種類が代表的なグレードです。

HH

精製鉱油(無添加)

添加剤を含まない精製鉱油。現在は実務でほとんど使われていない基礎グレード。

HL

防錆・酸化防止剤配合油

HHに防錆剤・酸化防止剤を加えたもの。低圧・軽負荷の油圧装置に使用。

HM

耐摩耗性油圧作動油 最も普及

HLに耐摩耗添加剤(AW剤)を加えたもの。高圧ベーンポンプなど現代の油圧機器に対応し、市販の専用油圧作動油の大部分がこのグレードに該当する。

HV

高粘度指数作動油(低温対応)

HMに粘度指数向上剤を配合し、温度変化による粘度変化を小さく抑えたもの。寒冷地や屋外の建設機械・農業機械向け。

💡 難燃性作動油について

鉄鋼・鋳造・ダイカストなど火源に近い設備には、ISO 12922で分類される難燃性作動油(水グリコール系・リン酸エステル系など)が使われます。鉱油系と性質が大きく異なるため、切り替え時はメーカーへ必ず確認してください。

作動油のグレードアップ

図:鉱油系作動油のISO規格グレード(HH〜HV)

STEP 01

粘度グレード(ISO VG)とは何か

作動油のラベルに記載される「VG32」「VG46」「VG68」は、ISO粘度分類(ISO 3448 / JIS K 2001)に基づいた粘度グレードです。VGの後の数字は、40℃における動粘度の中心値(単位:mm²/s)を示しています。数値が大きいほどオイルはドロドロとした高粘度になります。

ISO VG 32

動粘度(40℃):28.8〜35.2 mm²/s

サラサラとした低粘度。流動抵抗が小さく、応答性が高い。寒冷地や高速・精密システムに向く。

精密油圧射出成形機高速サーボ

ISO VG 46

動粘度(40℃):41.4〜50.6 mm²/s

最も汎用的なグレード。国内工場の一般的な油圧装置の多くがこの粘度を指定している。

汎用油圧工作機械油圧プレス

ISO VG 68

動粘度(40℃):61.2〜74.8 mm²/s

厚い油膜で重負荷・低速の油圧機器を保護。高温環境下での内部漏れも抑えやすい。

重負荷プレス鍛造機高温環境

VG32・VG46・VG68の粘度イメージ比較

図:ISO VGの数値が大きいほど粘度(ドロドロ度)が増す

粘度がズレたときの弊害

メーカー指定粘度から外れた作動油を使用すると、以下のようなトラブルが発生します。

⚠ 粘度が高すぎる場合

  • ポンプの吸い込み不良・出力低下
  • 配管・フィルターでの圧力損失増大
  • 始動時の動作遅れ(特に低温時)
  • エネルギー損失増加

⚠ 粘度が低すぎる場合

  • 内部漏れ増大・油温上昇
  • シール部からのオイル漏れ
  • 摺動部の潤滑不良・摩耗促進
  • バルブ・シリンダーの作動不良
STEP 02

用途別・環境別の選定基準

作動油の選定は、①機器の指定グレード確認 → ②油温・使用環境の整理 → ③ISO種別の選択の順で進めると判断しやすくなります。

① 用途・機器圧力から粘度グレードを絞る

用途・機器の特徴 推奨グレード 選ぶ理由
高速・精密油圧(射出成形機・サーボ油圧) VG32 流動抵抗が小さく、応答速度と省エネ性を確保しやすい
汎用油圧(工作機械・産業用プレス・コンベア) VG46 最も汎用的。国内油圧機器の標準指定グレード
重負荷・低速油圧(鍛造機・大型プレス・船舶) VG68 厚い油膜で高荷重下の摩耗を防ぎ、内部漏れを抑制
寒冷地・屋外設備(建設機械・農業機械) HV規格+VG46 高粘度指数により低温始動性と高温時の油膜保持を両立
高温環境(製鉄・鋳造・ダイカスト周辺) 難燃性作動油 火源に近い環境では鉱油系では引火リスクがあるため
油圧が使われる場所

油圧ショベルなど屋外建設機械には、温度変化に強いHV規格が推奨される

② 油温・使用温度から粘度グレードを調整する

作動油の粘度は温度に強く依存します。油温が10℃上がると粘度は約半分に低下するとも言われ、適正油温の範囲(一般的に40〜60℃)を外れると性能が大きく変わります。

年間を通じて油温が安定している屋内設備ではVG46が基準になりますが、冬季に油温が低くなりやすい環境ではVG32や高粘度指数タイプ(HV規格)を選ぶことで、始動時の吸い込み不良を防げます。逆に油温が常に高い設備では、粘度低下による内部漏れを防ぐためVG68が有利です。

粘度グラフ

図:油温の変化に伴う各VGグレードの動粘度変化のイメージ

③ ISO種別(HM / HV)を決める

状況 推奨ISO種別
屋内の一般的な油圧装置(温度変化が少ない) HM(耐摩耗性作動油)
屋外・寒冷地・季節温度差が大きい環境 HV(高粘度指数作動油)
火源に近い鉄鋼・鋳造・ダイカスト設備 難燃性作動油(ISO 12922)
食品・医薬品に接触する可能性がある設備 食品グレード対応品(NSF H1等)
STEP 03

粘度指数(VI)を確認する

同じVG46でも、粘度指数(Viscosity Index:VI)の高い製品と低い製品では、温度変化に対する挙動が異なります。粘度指数は「温度が変わっても粘度が変化しにくい度合い」を示す指標で、数値が高いほど温度安定性が高いことを意味します。

一般的な鉱油系HM作動油の粘度指数は95〜110程度です。HV規格では粘度指数向上剤の配合により150以上になる製品もあり、冬季の暖機運転時間の短縮や、夏冬兼用での油種統一に貢献します。

油圧作動油の粘度指数

図:粘度指数が高いほど、油温が変わっても粘度が安定する

📌 選定チェックリスト

① 機器のマニュアルまたは銘板に記載のISO VGグレードを確認する
② 設置環境の最低・最高油温を把握する
③ 屋外・寒冷地ならHV規格を検討する
④ 火源・食品接触の有無で難燃性・食品グレードを検討する
⑤ 異なる銘柄のオイルは混合しない(添加剤の干渉リスクがある)

FAQ

よくある質問

VG46とVG32、どちらを選べばよいですか?
機器のメーカー仕様(マニュアル・銘板)に記載されたグレードが最優先です。指定がない場合は、屋内の一般的な油圧装置にはVG46が最も汎用的です。高速・精密な動きを求めるシステムや、冬季に油温が大きく下がる環境ではVG32も選択肢になります。不明な場合は機器メーカーまたは作動油メーカーへ確認することを推奨します。
異なる銘柄の作動油を混合しても大丈夫ですか?
同じISO VGグレードであっても、銘柄が異なる作動油は原則として混合しないことを推奨します。添加剤の種類や濃度が異なるため、混合によって添加剤が干渉し、泡立ち・スラッジ生成・シール劣化の原因になる場合があります。やむを得ず補充する場合は、量を最小限に抑え、早めの全量交換を検討してください。
作動油の交換時期の目安はありますか?
使用条件によって大きく異なりますが、一般的な屋内設備のHM作動油では2,000〜4,000時間または1〜2年が目安とされます。ただし油温が高い・汚染が多い・水分が混入しやすい環境では劣化が早まります。色の変化(黒ずみ・乳白色化)・粘度の変化・異臭を定期的に確認し、サンプル採取による定期分析(オイルアナリシス)を行うとより正確な交換時期を把握できます。
作動油が白濁(乳白色)になった場合、どう対処すればよいですか?
白濁は水分の混入を示すサインです。冷却水の漏れや結露が主な原因です。そのまま使用を続けると、防錆性・潤滑性の低下やポンプ・バルブの腐食につながります。速やかに使用を停止し、水分の混入経路を特定・修繕してから全量交換を行ってください。