2026.07.14
- 設計・選定
- 潤滑
【プロが教える】工場のグリース選定ガイド:設備・用途別の正しい選び方と失敗しない3つの基準

この記事では工場設備に使うグリースの選び方を専門知識がなくても迷わず判断できるよう、3つの基準(荷重・速度/使用温度/使用環境)に沿ってやさしく解説します。グリースは種類によって性能が大きく異なり、選定を誤ると早期摩耗や異音、焼き付きの原因になります。仕組みを知れば自信を持って選べるようになります。
この記事でわかること
- グリース選定を左右する3つの基準(荷重・速度/温度/環境)
- 性能の土台となる増ちょう剤の種類と特徴
- 設備・用途ごとの選び方の目安と、混ぜてしまった場合のリスク
なぜ、「なんとなく」でグリースを選ぶと危険なのか
グリースは、基油(ベースオイル)と増ちょう剤という2つの成分の組み合わせでできています。見た目や硬さが似ていても、この組み合わせが変わるだけで耐荷重性・耐熱性・水への強さといった性能はまったく異なるものになります。
「以前から使っているから」「安いから」といった理由だけで選んでしまうと設備の条件に合わないグリースを使い続けることになりかねません。潤滑不足の状態で機械が動き続けると摩耗は静かに進行し、異音や発熱として現れる頃にはすでに部品の損傷が進んでいるケースも少なくありません。

選定基準①:荷重・速度に合わせた増ちょう剤選び
1つ目の基準は、その部位がどれくらいの重さを受け、どれくらいの速さで動くかです。実は荷重(重さ)に強いグリースと速い動きに向いているグリースは別物です。この2つを混同すると選定を誤りやすくなります。
重くて動きの遅い部位には金属同士が強く押し付けられても油膜が切れにくい極圧性(きょくあつせい)という性質を持つグリースが向いています。簡単に言うと"重い力がかかっても踏ん張れる粘り強さ"のことです。
一方、速く回転する部位にはグリースの中の油分がしみ出してすみずみまで行き渡りやすい性質が向いているとされています。一般的な傾向であり、最終的にはメーカーの仕様に従って選定することが基本です。
強い力がかかっても踏ん張れる極圧性が重視されやすい
多くの場面で使われる汎用グリースでカバーされることが多い
油がすみずみまで行き渡りやすいタイプが重視されやすい
3つの基準を支える増ちょう剤という土台
ここまでの荷重・速度、これから解説する温度、使用環境という3つの基準は、実は1つの成分によって性能が大きく左右されています。それが増ちょう剤です。増ちょう剤の種類が変わるだけで、耐熱性・耐水性・荷重への強さの傾向がまとめて変わると言っても過言ではありません。
増ちょう剤にはいくつかの系統があり、一般的には次のような傾向があるとされています。あくまで大まかな傾向であり、同じ系統でも製品によって性能差があるため、最終的な判断はメーカーの仕様書に従ってください。
| 増ちょう剤の系統 | 耐熱性 | 耐水性 | 荷重への強さ | 特徴・備考 |
|---|---|---|---|---|
| リチウム石けん系 | 〇 | 〇 | 〇 | 汎用性が高く、最も広く使われている系統 |
| リチウム複合系 | ◎ | 〇 | ◎ | リチウム石けん系より高温・高荷重に強い傾向 |
| ウレア系 | ◎ | 〇 | 〇 | 長寿命でモーター軸受などに使われることが多い |
| カルシウムスルホネート系 | 〇 | ◎ | ◎ | 耐水性に優れ、屋外・湿潤環境に使われることが多い |
※ ◎〇は一般的な傾向を示す目安であり、性能を保証するものではありません。同じ系統でも添加剤や基油の違いにより性能は変わります。迷ったときは、この表を参考にしつつ最終的にはメーカーへ確認すると安心です。
増ちょう剤という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、難しく考える必要はありません。要するにグリースの性格を決める主成分です。今使っているグリースの系統がわかれば、次に選ぶときの目安になりますし、後述する混ぜてよいかの判断にも役立ちます。
選定基準②:使用温度に合わせた基油粘度・耐熱性
2つ目の基準は、その部位が置かれる温度環境です。基油の粘度は、低温での始動のしやすさと高温での油膜の保持しやすさの両方に関わります。
低温環境では、基油の粘度が高すぎると始動時にグリースが硬く抵抗になりやすいと言われています。逆に高温環境では、基油が柔らかくなりすぎて油膜が保持できず、金属同士が直接触れ合うリスクが高まります。設備が置かれる場所の最低温度と最高温度の両方を把握したうえで、その範囲に対応したグリースを選ぶことが基本的な考え方です。
低温側:始動時の抵抗になりにくい、やわらかめの基油粘度が求められやすい
高温側:油膜切れ・軟化・酸化が進みやすく、耐熱性の高いタイプが求められやすい

選定基準③:水・粉塵・薬品など使用環境への耐性
3つ目の基準は、その部位がどんな環境にさらされるかです。水がかかる場所、粉塵が舞う場所、薬品や溶剤に触れる可能性がある場所では耐性を持つグリースを選ぶ必要があります。
水がかかりやすい部位では耐水性の高いタイプ、粉塵の多い環境では異物の侵入を抑えるシール性の高いグリースやこまめな給脂管理が有効とされています。また、食品関連設備など製品に接触する可能性がある場所では、専用に開発された食品機械用グリースを使う必要があり、一般工業用グリースを代用することはできません。用途に応じた専用品の選定が前提になります。

荷重・速度、温度、使用環境の3つは互いに影響し合います。1つの基準だけで判断せず、設備の設置場所・運転条件・稼働時間を総合的に確認したうえで選定することが失敗を避ける近道です。判断に迷う場合は、自己判断せずグリースメーカーや専門業者に相談することをおすすめします。
設備・用途別に見るグリース選定の考え方
実際の現場でよく見られる設備・用途を例に選定時に意識したいポイントを整理しました。あくまで一般的な傾向であり、最終的な選定は必ずメーカーの仕様・推奨に従ってください。
| 設備・用途 | 想定される条件 | 選定時に意識したいポイント |
|---|---|---|
| 転がり軸受(ベアリング) | 回転速度が比較的高い | 油分離性・追従性、メーカー指定粘度グレード |
| 減速機・ギア部 | 重荷重・衝撃を受けやすい | 極圧性、せん断に対する安定性 |
| チェーン・屋外可動部 | 粉塵・雨水にさらされやすい | 耐水性、異物侵入への耐性、給脂頻度の見直し |
| 高温炉・乾燥設備周辺 | 高温環境が継続する | 耐熱性、酸化安定性の高いタイプ |
| 食品関連設備 | 製品に接触する可能性がある | 食品機械用として開発された専用グリースの使用 |
違う種類のグリースを混ぜてしまうとどうなるか
結論から言うと、増ちょう剤の種類が異なるグリース同士を混ぜることは避けるべきとされています。相性が良くない組み合わせだとグリースが柔らかくなりすぎたり、本来の性能が出なくなったりすることがあるためです。
| 増ちょう剤 | カルシウム 石けん系 |
アルミニウム 石けん系 |
リチウム 石けん系 |
ウレア系 |
|---|---|---|---|---|
| カルシウム石けん系 | 〇 | △ | △ | 〇 |
| アルミニウム石けん系 | △ | 〇 | × | △ |
| リチウム石けん系 | △ | × | 〇 | 〇 |
| ウレア系 | 〇 | △ | 〇 | 〇 |
※ 同じ「〇」でも製品によって差があり、性能を保証するものではありません。切り替えの際は必ずメーカーへ確認してください。
補充の際に前回と違う製品を使う場合は、可能であれば古いグリースをできるだけ除去してから新しいグリースに切り替えることが望ましいとされています。増ちょう剤の種類がわからない場合は、自己判断で混ぜずに、メーカーへ相性を確認することをおすすめします。
よくある質問
硬めのグリースを選んでおけば、とりあえず安心ですか?
硬さ(稠度)だけで安全性が決まるわけではありません。硬すぎるグリースは低温での始動時に抵抗となったり、十分に行き渡らなかったりすることがあります。荷重・速度・温度・環境のバランスで選ぶことが基本で、迷った場合はメーカーの推奨仕様を確認することをおすすめします。
グリースの種類を変更する際に、注意することはありますか?
増ちょう剤の種類が異なる場合は、できるだけ古いグリースを除去してから新しいグリースに切り替えることが望ましいとされています。設備の取扱説明書に指定がある場合は、その指定を優先してください。
自社の設備にどのグリースが合うか判断がつきません。どうすればいいですか?
設備の設置場所(温度・湿度・粉塵の有無)、部位にかかる荷重や回転速度、稼働時間などの情報を整理したうえで、グリースメーカーや専門業者に相談するのが確実です。無理に自己判断で選定することは避けましょう。
誤って違う種類のグリースを混ぜてしまいました。すぐに問題が起きますか?
少量の混入で必ず即座にトラブルが起きるとは限りませんが、性能が本来より低下している可能性は否定できません。異音・発熱・グリースの異常な軟化などの兆候がないか経過を観察し、気になる場合はメーカーや専門業者に相談することをおすすめします。